クリニック開業後、先生方からご相談頂くことのひとつが人事労務に関わるスタッフマネジメントです。
日々の人事労務管理に役立てて頂けるポイントをお伝えします。開業後の先生はもちろんのこと、開業を検討されている先生方もご覧頂けると、開業後の具体的なイメージが描けるかと思います。
リスク管理だけでなく、スタッフの方のモチベーションアップに関わるポイントもお伝えしてまいります。
「Q&A 院長先生のための労務管理」 | 「院長の気持ちを配慮した労務リスクの取り方」 |
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こんにちは。
前回に引き続き、クリニックの残業対策制度をご紹介します。
「クリニックの残業対策制度」
①定額残業代制度 (前回ご紹介)
②みなし労働時間制度
③変形労働時間制度
④残業時間の自己申告制度
今回は②のみなし労働時間制度についてお伝えします。
みなし労働時間制度とは、在宅クリニックや学会、外部研修など院外で業務に従事し、労働時間の計算が困難な場合、一定労働時間勤務したものとみなして計算できる制度です。
所定労働時間が1日8時間の場合、実際に業務に従事したのが6時間であっても、10時間であっても8時間とみなして計算します。
・導入の要件
①クリニックの外で労働がなされること
一部がクリニックの外で行われ、残りがクリニックの中で行われる場合クリニックの外での労働についてのみ適用される。
②労働時間が算定しがたいこと
院長先生の具体的な指揮監督や時間管理が及ばないこと
以下の場合は、労働時間が算定しがたいとは判定されません。
ア.院長先生と同行する場合
イ.携帯電話等で随時院長先生の指示を受ける場合
ウ.訪問先や帰院時刻など具体的な指示を受ける場合
・導入のメリットとデメリット
導入のメリット
①就業規則に定めれば導入できる。
労使協定が導入要件ではない。
②クリニックの外で労働した時間の管理が容易である。
所定労働時間を超える時間労働したとしても一定時間労働したものとみなすことができる。
職員が直帰した場合も所定労働時間労働したものとみなすことができる。
導入のデメリット
デメリットとしては、導入の要件が厳しいことにあります。
導入の要件を前述しましたが、全てを満たしている必要があります。
・注意点
みなし労働時間制度を導入していても、以下の点は適用されます。
①休日出勤、深夜労働の場合は追加の割増が必要
②休憩時間は、院内同様適用
③1日8時間1週40時間を超えれば36協定が必要
④みなし労働時間を9時間とする場合は、1時間の割増賃金が必要
⑤客観的に通常の所定労働時間ではこなしきれない業務量のときは院外での労働時間と院内での労働時間を合算した時間が労働時間になる
みなし労働時間制というと、いくら残業しても所定労働時間の賃金しか支払わなくてもいいと考えがちですが、導入のメリット、デメリット、注意点に留意しながら導入する必要があります。
制度を誤解して労働紛争になった判例もありますので制度の趣旨を理解されたうえで運用を検討する必要があります。
次回は、変形労働時間制度についてご紹介したいと思います。
変形労働時間制度については、内容が盛りだくさんになりますので何回かにわけてお届けしようと思います。
法改正だけでなく、最近注目の成果主義賃金制度ともかかわってくる内容となっています
こんにちは。
前回は、患者さんを相手にしていることから、定められた時間通りで運用することは難しいため、残業対策として下記の4つの制度のご紹介をしました。
①定額残業代制度
②みなし労働時間制度
③変形労働時間制度
④残業時間の自己申告制度
そこで、今回から4週にわたり、それぞれの制度について詳しくご紹介していきます。
今回は、定額残業代制度について見ていきます。
定額残業代(定額残業代・みなし残業代)制度とは、給与や手当に含めるなどの方法で、あらかじめ一定時間分の時間外労働に対する割増賃金(残業代)分を支払っておくという賃金の支払い方法のことをいいます。
クリニックによっては、固定残業手当、定額残業手当、管理職手当、職務手当と手当名は多種多様ですが、残業時間を賃金に含めるという趣旨で設けられる場合、定額残業制度に該当します。
・導入のメリットとデメリット
定額残業制度はクリニックにとって本当にメリットがあるんでしょうか。
この制度を利用することで、残業代を手当として定額支給しているのでどれだけ残業しても、支払わなくていいと考えがちですが
実際の残業時間が、定額残業代部分を超えれば、差額分は支払わなくてはなりません。
クリニックからすれば、毎月残業代を定額で支払うことで、残業代が少ない月は、働いていない時間も余計に払い定額部分を超えたら、差額を支払うことになります。
結論から言えば、クリニックにとって残業代圧縮をねらいとするのであれば、この制度の導入のメリットはあまりないといえます。
・導入例
クリニックでは、事務長や師長等管理職に該当する職員を対象にしていることに特徴があります。
また、残業が多く発生する場合、事務手当、職務手当、又は調整手当として残業代を手当として定額支給している例が多いです。
・注意点
定額残業制度の導入自体は違法ではありませんが、導入には注意点があり、運用を誤るとせっかくの制度が活かされず、逆に多くの残業手当を支払わなければならなくなります。
定額残業制度が合法と認められるには以下の要件を満たしている必要があります。
①残業代に相当する部分が、それ以外の賃金と明確に区分されていること
②何時間分の残業代に相当するのか定められていること
③実際の残業時間で計算された残業代が定額残業代を超える場合は差額部分を支給すること
④定額残業代以外の所定内給与が最低賃金を下回らないこと
⑤新規入職者に対しては、雇入通知書で定額残業代に相当する手当が時間外労働に対応することを明確にしておくが必要です。
⑥在籍者に対しては、これまでの賃金を基本給と定額残業手当に分割する場合は不利益変更になりますので「労働条件変更通知書」等により個別の同意が必要なこと
つまり、割増賃金部分を雇入通知書や就業規則等で明記してしない場合は定額残業代と認められず、定額残業手当を設けていても別途、割増賃金が必要になるうえ、定額残業手当も割増賃金の計算の基礎に含めることになりますので、残業代が更に割高になりますから、注意が必要です。
・次回予告
定額残業制度の運用方法はいかがだったでしょうか。
次回は、みなし労働時間制度についてご紹介したいと思います。